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ぐだぐだな日常と、小話と。
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  ウマウマが完成したので久しぶりに小説です。本編を細切れで上げていこうと思います。
 新しいキャラがやっと出せます。ひねくれ者です。






   * 絵空の壁 * 1 *























「‥何があったんだ、お前」

 お使いから帰ってきた私に、不意にテア様が尋ねました。

「はい?何がですか」

「歌など歌って、えらく上機嫌だな」

「私、歌ってました?」

 胸に手をあてて首を傾げると、肯定の頷きが返ってきました。

「ああ。子供の歌のような‥やさしい神がなんだとか」

「‥ああ、それは昔どこかで聞いたわらべ歌ですよ」

 誰が教えてくれたんだったか、よく覚えていませんが。
すると、テア様はふいに、何か物思いに沈んでしまいました。こういうとき、邪魔をしてはいけないと思ったので触れないようにして仕事をしていると、後ろからぽつりと呟く声がしました。

「‥‥‥‥‥‥やさしい神か‥」

「テア様?」

「いや、何でもない」

「‥‥そうですか」 

 私は早々に諦めました。テア様は一度こうなったら何度聞いても教えてくれません。
 あまり追求しない方がよいと思うので、話題を変えましょう。

「あ、そういえば、テア様、聞いてくださいよ!私が上機嫌な理由」

「手短にな」

「さっき買い物に街に出たとき、少し迷って袋小路に入ってしまったんですよ。でも、路地にしては明るいところだったのでちょっと探検してみたくなって、奥まで行ってみたんです」

「お前は仕事中に何をやっているんだ‥」

「それで、角を曲がったら、空があったんです」

「‥そりゃあ、あるだろう、空は」

 呆れたように言われたので、私はぶんぶんと首を振って否定しました。

「そうじゃなくて、行き止まりの白い壁に、綺麗な青空の絵が描かれてたんですよ。描きかけでしたけど」

「成程‥洒落たことをする者も居るものだな」

「本当に綺麗で、それでつい気分もうきうきしてしまって。それにしても、あんな誰も見ないようなところに誰が絵を描いたんでしょうね?」

「さあな。誰にも見られないから、という理由も考えられるが」

「見られたくなかったら描かないでしょう?‥あ、分かりました」

「?」

「本当は見て欲しいんだけど、人通りの多いところに描くのは恥ずかしかったから、こっそり誰か1人でも見てくれればいいところに描いた、とか!」

「どうだろうな‥」

 テア様が溜息を吐いたとき、扉がこんこんと叩かれ、他の神官の方が入ってきました。

「賢者様、国報が届きました」

「‥ああ、ありがとう」

 テア様は気だるそうに答えて、束になった書簡を受け取りました。
テア様のもとには毎日、周辺の国や大陸で起こった主な出来事を知らせる書物、国報が山と届きます。賢者であるテア様に、歴史を記憶するという責務があるからです。
 今知られている限りでは、この世界には7つの大陸があります。私のいるトーシス神殿は、ロジュ大陸、通称“黒土と森の大陸”の中の一国、フォルデルカ皇国の中心部にあります。多分、最も世界の動向が集まってくる場所でしょう。
 その中の一番上にあるものを広げたテア様の顔が一気に曇りました。

「‥‥クザンの、頭に腐れ魔物が住み着いていそうな馬鹿王がまたふざけた法をばら撒いたらしいな」

 テア様、いつになく毒のあるお言葉。
つい先ほど届いたばかりの書簡を見て眉をひそめています。
 クザンは隣国であり、唯一神ゼンリをもつ、クリミヤ聖教を国教としています。フォルデルカで信仰されているのはクリミヤ教ウェルトネイア派。もとは同じ宗教から、国柄や思想の違いによって分岐し、今の形になったのだとテア様は言っていました。
 同じクリミヤ教とは言っても、ウェルトネイア派はゼンリ神を初めとした多神教でクリミヤ聖教とはだいぶ違うので、単にウェルトネイア教とも呼ばれます。
 クザンでは宗教を前面に押し出した統治を行っているのですが、宗教が違えば信仰の形もこちらとは毛色が違うようで、法術士たちが優遇されのさばる反面、魔術師たちはかなり悲惨な扱いを受けているそうです。

「仮にも隣国の王であるクザン王に対して、腐れ頭を魔物が喰っている馬鹿王だなんて、流石テア様。度胸がありますね」

 しみじみと言うと、堅い声で正されます。

「度胸があるのはお前の方だろう。俺はそんな風には言っていない」

「ところで、クザンで何かあったんですか?」

「また、だ。とうとう“魔術師狩り”を始めたらしい」

「‥‥魔術師、狩り?」

 なんとも不穏な響きの言葉に、私の表情も曇ります。魔物狩りなら騎士の仕事ですが、魔術師って、人間じゃないですか。

「数年前に王が代わってから、魔術師への風当たりはますます強くなっていた。数ヶ月前から暴走したクリミヤ教徒達が法術士と結託して魔術師を襲っているそうだ。元々魔術師には、国に従うことを嫌がる性格の者が多いからな‥見せしめだろう」

「そんな‥」

「ただし、クザンから無事に出られれば‥ベレティラやクストは亡命を認めているし、フォルデルカもクザンとは不可侵の条約がある。一歩この国に入れば向こうよりはずっと安全だ。何年か前からちらほらと逃げてきた魔術師が居るようだしな」

 そうだったんですか、知りませんでした。そういえば、フォルデルカは、クザンとは昔から仲が悪いですしね。

「その人たちはどうやって暮らしているんでしょう」

 仕事とか、見つけられているんでしょうか。この国の人達にいじめられたりはしてませんよね。この国の人達は温厚ですし。しかし、テア様の表情は曇ったままです。

「魔術師なら働き口はあるだろうが、クザンから逃げてきた魔術師となると、雇い口もないかもしれない‥‥魔術師たちが、無謀な行動をとらなければいいのだが」

 これは私にも分かりました。財産の全てを失ったフォルデルカに入った魔術師たちが、食うに困って魔法を悪用しないかと危惧しているんですね。

「大丈夫ですよ‥きっと」

 根拠の無いことを言ってみましたが、テア様は憂いの表情を崩しません。私の表情も知らず知らずのうちにこわばります。
 暗い顔をしているとどんどん気分が暗くなりますし、重々しい空気の中仕事をしていると息が詰まりそうで、テア様の方もそれは同じだったようです。

「‥エアル、そろそろ休憩だ」

 そうですねと言いたいのですが、残念ながらそうはいかないのです。

「まだです。鐘が鳴っていませんから」

 神殿では、時守官と呼ばれる特別な神官が方法は知りませんが、時間を管理しています。
ちなみに今の時守官はレヴィという年齢性別不詳の人で、うさんくさいと言う方もいますが、私の無二の友人で、しょっちゅう話もします。
 広い神殿ですので、時間の節目になるとよく響く鐘の音で皆に時間を知らせるのです。

「もう鳴るだろう‥早く休みたい」

 ぶつぶつと文句を言っているテア様の声を後ろに聞きながら、私は窓際に立ちました。

「まだです‥いえ、あと何秒か」

「当てずっぽうでものを言うな」

 信じていない様子の声が背中にかかりますが、私はもう秒読みを始めていました。

「‥5、4、3‥‥‥‥‥‥はいっ!」

 声を上げた次の瞬間、高らかに、謳うように鳴り響く鐘の音。私はこの音が好きだったりします。
こんなに澄んだ音色を出せるのは、きっとレヴィだけでしょう。一度、鳴らさせてもらったことがあるんですが私ではあまり綺麗には響きませんでした。
 ところで、ほらほら、見てくださいテア様のこのまん丸い目!私は少し自慢げに、呆気にとられているテア様を見つめます。

「な‥お前、体内に鶏でも飼っているのか」

「そんなわけありませんよ、鶏は朝鳴くだけです」

「‥‥‥‥ああ、お前自体が鶏だったか」

「違いますよ。ほら、あれ、見てください」

 私はそう言って、窓の外を指し示しましたが、テア様は眉をひそめました。

「‥鐘楼台は見えないが」

 鐘楼台自体は、ここからでは別の建物に遮られて見えません。ですが、遠くの方には鐘楼塔へ向かう廊下の中が見える窓があります。時守官は、時間になるとあそこへ行って鐘を鳴らすんです。

「あの窓ですよ。いつも、あそこをレヴィが通ったちょうど10秒後に鐘が鳴るんです」

 時守官は仕事上、結構暇が多いそうで、休憩時間には中庭などでくつろいでいます。

「‥‥あの窓をいつも見張っているのか、お前は」

「いえ。レヴィに教えてもらったので、一度テア様を驚かせてみたかったんです」

「レヴィナスめ、余計なことを‥もういい、休憩だ、休憩」

「はい。じゃあ、私は街に出て軽く済ませてきます。私が居ない間に猫を連れ込んではだめですよ」

 前科がいくつもいくつもいくつも‥ありますからね。一応言っておかないと。言ってもだめですが、一応。

「‥‥外か‥‥俺も今日は外で食べる」

「あ、そうなんですか?じゃあ一緒に行きましょう。いつも買っているところがありますから」

 テア様がお昼を外へ食べに行くなんて珍しい。

「それと‥」

「はい?」

「‥‥なんだ、その‥‥お前の言った、空の絵」

 ああ、成程。見に行きたくなったんですね。
 綺麗な絵が好きという点では私もテア様も同じですから。私もつい最近気付いたのですが、特に青い空がお好きなようで、いつもいつも暇さえあれば空ばかり見ています。

「あの絵、描きかけだったから、ひょっとして描いている人に会えるかもしれませんね」

 暗い気分も一掃できるでしょうし、私はテア様の腕を引いて、上機嫌で神殿の外へ出ます。昼の休憩時間は長くとってあるので、多分間に合うでしょう。





 =============


 つづきます。
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