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ぐだぐだな日常と、小話と。
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 続きあげました。終わったらキャラ設定画もあげなきゃ。












   * 絵空の壁 * 4 *

















「あの魔術師さん、今、何してるんでしょうね。お金はどうしているんでしょう」

 この話題を出すとテア様が不機嫌になるのを知りつつも、私は言わずにいられませんでした。

「‥‥あれは、ハスヴァル=フランマーレ。クザンの貴族、フランマーレ公の息子だ‥もっとも、師に魔術の才を見抜かれて魔術師になり、家を捨てたようだが」

「そういえば、カレなんたらとかいう人の名前を言ってましたね」

 どことなく感じた気品のようなものは、そういうことでしたか。
フードのずれを直しながら呑気に返事をすると、テア様はそれを横目で見ながら溜息を吐きました。

「‥‥そのカレジアス=ルエルタだが、調べてみたが、フォルデルカに渡った後、知人の安否を尋ねてクザンに戻り、件の魔術師狩りで行方不明になっている‥‥ルエルタ殿ほどの魔術師が、そう簡単にやられるとは思っていないが」

「‥それも、言っていましたね」

 彼があそこまで怒った理由。
 きっと、敬愛する師が法術士によって襲われた、ひょっとしたら殺されてしまったかもしれないという悲しみと不安によるものでしょう。
 そして、師をクザンに残してきてしまった自分への怒りもあった筈です。

「‥‥まあ、あの様子では、金銭面は心配することは無い。問題は、法術士への恨みから、何かしないかだ」

「それはありません」

 きっぱりと首を振ると、テア様は眉をひそめました。

「‥‥‥何故、そんなことが言える?」

「だってあの人、とても後悔していました。だから、多分大丈夫です‥」

「‥ならいいんだがな‥‥ところでお前、大丈夫か。何だか様子がおかしいようだが」

 額に手を伸ばそうとしてやめた様子のテア様は、自分の手首を掴んで少し心配そうに尋ねました。
私は軽く笑って首を傾げます。

「ちょっと、風邪を引いてしまったみたいで‥‥」

「無理はするなよ‥む、資料が無いな。ちょっと書庫に行って来る」

「はい」

 テア様が部屋を出ると同時に、私はよろよろと壁によりかかりました。
苦痛を顔に出さないのは至難の技でした。実は、先日傷ついた左肩のかすり傷、いつまでたっても塞がらず、むしろ広がっているような気がするんです。何度も治癒魔法で直そうとしているんですが、何故か魔力が集中できず、すぐに散ってしまうんです。
 やむなく消毒し、包帯を巻いているんですが、じくじくという痛みは止まりません。包帯の下が一体どんな状態になっているのか、怖くて見ることができずに居ます。

「‥やっぱり、毒か何か、ついてたのかな‥」

 骸蛇の尾の先に、遅効性の毒でもついていたのでしょう。治癒専門の神官にお願いしようかとも思いましたが、それではテア様の耳にも入ってしまいます。
 そうすれば、嘘をついたことがばれてしまいますし、多分テア様は自分が許せなくなってしまう。そしてあの魔術師、ハスヴァルさんとの仲も、ますます悪化してしまうかもしれません。

「私ひとりが我慢すれば済む話ですよね‥」

 幸い、私には心強い味方がひとり居ます。テア様並みに色んなことに詳しい無二の友人が。

「‥次の鐘が鳴ったら、レヴィのところに行かないと‥」

「呼んだ?」

「きゃああっ!?」

 寄りかかっていた壁のすぐ隣にある窓から、よく知る人物が顔を出していました。こんなに乙女らしい悲鳴を上げたのは久しぶりです。人間、驚くと甲高い声が出るものですね。

「ななな、なんで、こんなところに!ここ、3階ですよ!!」

「だって、愛すべき友が呼んでいるんだもの。来ないわけにはいかないよ」

 性別年齢不詳の美しい人。気後れしそうになりますが、いたって気さくで明るい、私の友人、レヴィ。紫紺の髪は複雑に纏められていて、湖のような瞳が悪戯っぽい光をたたえています。

「‥レヴィ、もしかしてあなた、浮いてます?」

「浮いてます浮いてます。流石私の友だね。よく見破った!実は怪しげな魔術師から買った浮遊薬を試してみたんだよ」

 にっこりと笑いながら、レヴィは窓に手を掛けて身軽に部屋の中へ飛び込みました。

「相変わらず、私の予想を超えるのが好きですね」

「うん。人をからかうことに次いで好きなことだ。ところでエアル、どうして私のところに行かないといけないのかな?」

「えーと、あの‥その件についてなんですが‥」

 言おうとしたときにまた痛みの波が襲ってきて、私は思わず顔をしかめました。
傷口が脈打つのが感じられ、全身から汗が吹き出ます。苦痛に耐え切れず肩を押さえると、すぐ異変に気付いたレヴィが、険しい顔をつくりました。

「‥エアル!肩が痛いんだね?見せなさい‥‥」

 すぐに私の手をどかし、襟元をずらして肩を見たレヴィの表情が、一気に恐ろしいものに変わるのを見て、私は身が総毛立つのを感じました。

「これは‥エアル、この傷をどこで負った。誰がやった?私が八つ裂きにしに行ってあげよう」

 レヴィ、本当にやりそうで怖いです。

「待ってください、どうしたんですかいきなり」

「呑気で無害な君に、呪いなんてものをかけた非情な糞野郎はすぐにでも地獄に落としてあげないといけない」

 呪い?

「ちょっと待って、レヴィ。毒では?呪いってなんですか」

 なんだかとっても不穏な響きの言葉に、私は思わず身を乗り出しました。

「じわじわと弱らせる、タチの悪い呪いだよ。呪いに込められた意志がごく弱かったから気付かなかったんだね。かけたのは相当の術士だろう‥このままにしておいては危険だよ。すぐにでも呪いを掛けた主を潰しに行かなければ」

「‥‥‥どうしよう、あの人、もしかしたらもうこの街に居ないかもしれません」

 あんなことがあった後です。大きな神殿があるここから離れていてもおかしくない、ということに気付いて私は青ざめました。

「捕まえるよ、エアル。大丈夫、呪いの糸を辿れば必ず主にたどり着く」

 レヴィが私の手を掴んで窓に足をかけたとき。

「呪い‥だと?」

 どうしてこういう間合いで現れるんですか、テア様!!

「矢張りお前、昨日何か傷を受けていたんだな?何故言わなかった。どこだ、見せてみろ!!」

「賢者殿、落ち着きなさい。エアルは君が自分を責めるだろうと気を使っていたのだよ。そんなことも分からないのか愚図」

「‥‥‥!!」

 レヴィの遠慮の無い言葉に、テア様は自分を恥じるように顔色を変えると、口を噤みました。

 ああ、失敗してしまった。隠すなら最後まで隠し通さなければ意味が無いんです。
 でなければ、余計に辛い思いをさせてしまうというのに。

「行くぞ。もとは俺の失態だ、俺が片付ける。フランマーレを倒してでも呪いを解かせてやる」

「私もついて行かせてもらうよ。友が心配だからね」

「お前は時守の責務があるだろう」

「今日は出かけるような気がしていたから、私がいなくても鐘が鳴るようにしておいたんだよ、賢者殿」

「‥‥ありがとう‥ございま‥」

 す、が出る前にまた痛みの波が襲ってきて、テア様とレヴィは顔を見合わせると両側から私を支え、迷わず窓から飛び降りました。
 テア様は風を発生させて落下を遅め、レヴィは浮遊薬の効果でふわりと地面に降り立ちました。

「すまない、俺の責任だ」

 いえ、そんなことはありません、と言いたいんですが‥‥今はちょっと無理みたいです。全身がだるくて口を動かすのも辛いんです。

「そうだね、君のせいだ」

 レヴィはこういうとき、テア様に厳しいです。普段はテア様で遊ぶのがレヴィの楽しみなので、テア様はレヴィが苦手なようです。

「護衛であるエアルが賢者を守るのも、その結果傷つくのも予想できることだ。その当然の傷を、君が思い悩むせいで逆に言えなくなっているんだよ」

「‥‥‥すまない、と言ってはいけないのか。たとえ誰であっても、俺のせいで傷を負うのは我慢できないんだ」

「仕方ない賢者殿だね。さあ、さっさと腐れ魔術師を葬りに行くよ」

 誰も葬ってなんて言ってません。

「あの人、許して上げて下さいね‥‥」

 言っても、レヴィは聞こえないふりをしました‥‥逆に魔術師さんが心配になってきたんですが。
 口元を引きつらせたとき、なんだか呼吸が楽になってきていることに気づいてふと顔をあげると、私の肩にあてられたテア様の手が、淡い光を発していました。癒しの術は、ただでさえ疲れるのに、それをずっと掛け続けてくれていた‥。

「‥ごめんなさ」

「言うな。言わなくていい。俺も、もうすまないなどと言わない」

「じゃあ、ありがとうございます」

 テア様に安心してほしくて笑顔をつくると、余計に辛そうな顔をされそうで、どんな表情をしていいのかわからない。軽く俯いたとき、門の方角からの、口論のようなやりとりが耳に入りました。







  ===================

 よーやくこの章が終わりそうです。オラに元気を分けてくれ。
 誤字脱字の指摘とかあったらコメからお願いします。
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