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ぐだぐだな日常と、小話と。
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 うきゅー。

 腹が痛いです。

 なので本編の続きアップします。

 むぎゃー。

 苦しいよお。







   * 絵空の壁 * 2 *













「ほら、テア様、こっちです。この奥です」

「分かったから、ちょっと待て。もっとゆっくり‥」

 テア様の腕をぐいぐい引っ張って、あの絵があった道へ入っていきますが、神殿からここまで走らせてしまったので、流石にお疲れのようです。私は全然大丈夫なんですが。

「仕方ありませんね、テア様は文官ですし」

「‥‥‥お前な‥」

 恨めしそうな視線を注がれたので、ゆっくり歩くことにしました。時間はまだ大丈夫な筈ですしね。
 民家の間の狭い道に入り、見覚えのある石畳を抜けて、見覚えのある曲がり角へ。
テア様ここです、と口を開こうとしましたが、振り返ってしぃ、とテア様に沈黙を頼みました。
どうした、と目で訴えて来ましたので目線で角の向こうを示すと、そっとそちらに身を乗り出しました。

「‥‥あれは‥」

 囁くような驚き声を上げたテア様に、私は笑顔を向けました。角の向こう、空の絵の前に絵の道具を持った人が立っていたんです。

「きっとあの絵を描いた人ですね。私達、運がいいみたいです」

 気付かれると、恥ずかしがりかもしれないその人を驚かせてしまうかもしれませんから、こそこそと声を抑えて話さなければいけません。テア様も心持ち身を乗り出してその人の挙動を見守ります。
 絵の道具を下に置き、大きな筆を持ったその方は、後ろを向いている上に長い黒の外套についた頭巾を目深に被っているようで、顔は全く見えません。
背格好から言って男性でしょうか。筆にべったりとついている色は‥‥ん?

「‥テア様、青い空に黒の絵の具で何を描くんでしょう‥?」

「‥知らぬが‥鴉でも描くんじゃないか」

 二人で首をかしげていると、黒衣の人物は筆を持った手を高く上げ、そして。

「なっ‥!!」

 べちゃ、という美しく無い音と共に、青い空が闇に染まりました。
透き通るような蒼も、綿のような雲も、美しい鳥も。
全てを汚すように、黒い線が横切る様は、私に身が総毛立つような悲しみと怒りをもたらしました。

「‥‥許せません!」

 怒りの言葉をもらした瞬間、黒衣の人物がこちらに気付いて振り向きましたが、私の方が先でした。

「“疾走(はし)れ雷燕”!!」

 簡略化された詠唱式を唱えた私の手から放たれた雷の燕は、光の矢のように飛んで黒い筆を弾き飛ばしました。この術は、流石に詠唱式無しだと失敗するかもしれませんから。

「‥‥何を!!」

 思わぬ攻撃を受けたその人は驚いたようで、壁に描いてあった青空のような色の瞳が揺れているのが見えました。
 先ほどの弾き飛ばしの反動で頭巾がはずれ、露わになったその顔は、青みがかった黒い髪に、透き通った蒼い瞳の成人男性‥‥繊細そうな顔は、とてもこんなことをするような人間には見えません。
 いえ、でも実際現場をこの目で見ているんです。きっ、と怒り顔をつくった黒衣の人物。その口が凄い速さで動くのを見て、何かの詠唱をはじめたことに気付きました。テア様がすぐしゃがみ込み、地面に手を当てると、黒衣の者の四方に石壁が立ち上がり、黒衣の人物の周りを塞ぎました。

「よし、これで‥」

 油断した次の瞬間、無感動な声が石壁の中から響きました。

「“噛み砕け、骸蛇(がいじゃ)”」

 目の前で石壁は砕け散り、こちらに敵意を向けた蒼い目があらわれました。
石壁を粉々に噛み砕いたのは、体が透き通り、中の骨が見える屍(かばね)の大蛇。

「テア様、この人‥」

「ああ、どうやら魔術師のようだな‥‥‥しかも、これは死霊術だ」

 死霊術?そういえば、聞いたことがあります。魔術の中には、命の尽きたものを操ったり、仮初の命を与え、しもべにする術があると。

「黒髪に蒼い瞳‥‥貴様クザンの者か」

「え‥!?テア様、クザンってまさか‥」

 死霊術まで使える高位の魔術師。この人が、魔術師狩りから逃げてきた、クザンの魔術師。
魔術師は蒼い瞳をいっそう険しくさせて、こちらを睨みます。

「神官が、“邪教に染まった忌まわしき反逆者”に何の用だ‥あざ笑いに来たか、クザンの法術士共のように」

 ああ、やっぱり。この人も、クザンから逃げてきたんです。
その言葉は、明らかにテア様に向けられていて、テア様が諭そうと口を開いたのですが、つい、言葉がついて出てしまいました。

「違います!」

 魔術師は射抜くような視線を向けてきますが、負けずに睨み返します。
子供の頃、睨みあいなら百戦錬磨の私を舐めないで下さい。

「何が違う」

「クザンの件については私達は酷いと思っています。ただ、あなたがその絵を‥」

「‥何?絵がどうした」

 意外なことを聞かれたと言うように、魔術師は形の良い眉をひそめました。

「その絵!知らないとは言わせません!とても綺麗な絵だったのに、こんな風にしてしまって」

「‥‥何を言っている」

「描いた人も悲しいでしょうけど、私はもっと悲しいです。そしてテア様もきっと、もっともっと悲しいです!!」

「おい、エアル‥‥」

 そこまで見たいとは言っていない、とテア様が顔をしかめますが、わかりますよ、テア様。
見たかったですよね。本当は、もっと間近でちゃんと見たかった筈です。

「‥だから、その絵は‥」

 屍の大蛇をしたがえた魔術師は険しいながらも、目元に少し呆れたような色を漂わせていますが、何故か分かりません。
もしかしたら、真面目に注意する私の姿が滑稽に見えたのかもしれないですが、そんなことは気にしません。
テア様は喋らないことに決めたらしく、黙って事の成り行きを見ています。

「ものにあたりたい気持ちも、人にあたりたい気持ちもあるでしょう。でも、慰めてくれる存在の綺麗な空にあたってどうするんですか!!」

 私、少し半泣きです。
あの絵、私は本当に好きだったのに、という怒り悲しみ憤り全てを込めて訴えると、魔術師の端正な顔が弱ったように、イラついたようにむっとしかめられました。

「自分で描いた絵を自分で潰して何が悪いというんだ」

「‥‥‥‥‥‥‥はい?」

 どうやら私、また大失敗をしてしまったようです。










  **************



  

  まだまだ続く。
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