ぐだぐだな日常と、小話と。
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進路とか考えたくないよぅ。
将来に対しては、不安が募るばかりで希望なんて見えねぇ。
だって中学のときの先生があんまり未来は暗い暗いって連呼するから。
現実逃避で小説つづきー。
* 絵空の壁 * 3 *
「本当に、本当に!!申し訳ありません!!」
「私からも謝罪する。早とちりをして申し訳ない」
「‥‥別にいいさ、謂れの無い非難を浴びせかけられるのは慣れている」
私とテア様は揃って微妙な表情になりましたが、立場が立場なので言い返せず、言葉に窮します。
一体どう謝れば機嫌を直してもらえるんでしょう。
「‥貴公は、見たところ一級魔術師だな」
「いっきゅうまじゅつし!?」
つい、声を上げてしまい、両方から視線をそそがれることになって首を縮めましたが、一級魔術師って、法術が使えなくても導師と同等の力を持っているっていう、あの。
だから、高等魔術だという死霊術を使えたんですね。ひょっとしたら、テア様とも互角に闘えるのかも。
「ひょっとして、カレジアス=ルエルタ殿の弟子では」
誰ですか、それ。
私はただ首を傾げるだけですが、尋ねられた魔術師さんは蒼い目を細め、警戒するようにこちらを見ます。
「‥知らないな、そんな名は」
「申し遅れたが、私はトーシス神殿に勤める賢者の、テア=セディク=エルフェンラート。ルエルタ殿とは一度、お会いしたことがある」
「‥賢者?そうか、フォルデルカの賢者とはお前か‥しかし、だからと言ってどうして信じられる。お前達のような神殿の者は、魔術師には嘘を吐いてもいいと思っているんだろう?」
「誤解のないように言っておくと貴公に危害を加える気は一切無い‥弟子の貴公がここにいるということは、ルエルタ殿もフォルデルカに来ているのか‥行方が分からないと言うから、魔術師狩りに巻き込まれたかと憂いていたのだが」
「‥‥魔術師、狩り‥?」
その口調に、すぐにテア様がしまった、という表情になりますが、魔術師は雰囲気を尖らせて聞き返しました。
「どういうことだ、答えろ神官!クザンで何があった!?」
この人は、魔術師狩りが始まる前にフォルデルカへ逃げてきたのでしょう。
一般には伝わっていない情報なので、知らなかったようです。
私達は、てっきり彼がそれを知っているものと思い込んでいました。
「‥‥‥馬鹿王が、魔術師狩りの命を出した。すべての凶事と不始末の原因を魔術師になすりつけ、狂乱した市民達が法術士たちを先頭に立てて魔術師の屋敷を襲撃している」
「‥‥‥‥‥何故奪う。何故殺すんだ‥‥もう十分だろう!!クリミヤ教徒め、法術士め、何が神、何が信仰だ!!地位を奪い、財産を奪い、自由まで奪っておきながら、まだ足りないのか!!我々は生きることすら許されないと!?ふざけるな!!何故放って置いてくれない!!」
崩れ落ちるように膝を突き、石畳に爪を立てたまま身を震わせている主人の怒りに呼応するように、骸蛇は激しく身をのたうたせ、周囲の空気を薙ぎます。
「その怒りもっとも‥しかし、心を鎮められよ!!」
鎮まらない怒りを収めようとテア様が封じの詠唱式を口にしようとした、次の瞬間。
骸蛇の尾が風を斬って、テア様の頭上に振り下ろされようとしました。
「テア様!!」
咄嗟にテア様を突き飛ばして避け、私達は石畳に倒れました。
封術系は基本的に長い詠唱式を必要とするので、テア様も簡略式くらいは唱えないと精度が上がらないんです。
「ご無事ですね。よかった‥兎に角、あの方に落ち着いて頂かないと‥」
「‥‥“我に仇為す者に鉄の戒めを”!!」
起き上がり様にテア様が叫んだ刹那、空間を切り裂くように出現した鈍色の鎖が、骸蛇とその術士に何十にも撒きつき、動きを封じました。
「‥無茶をするな!!傷は無いか?」
「はい、無傷です。大丈夫‥」
「大丈夫ではないだろう!!もし当たっていたら‥ああ、本当に‥‥お前という奴は‥‥」
消え入りそうな声で、よくやった、と言われましたが、なんだか謝られているように聞こえました。
「もし傷を負っても治癒魔法があります。私もいっぱしの法術士ですから。それに、テア様をお守りするのが私の仕事ですし」
私は、テア様にひとつ嘘を吐いてしまいました。
テア様を庇って避けたとき、骸蛇の尖った尾が、肩を掠っていたんです。
幸いかすり傷でしたし、肩にかかっているフードが傷を隠してくれました。
きっと、私が傷を負ったと知れば、テア様は優しいから、自分を責めるに違いないのです。
魔術師さんも多分、わざとやったわけではないでしょうし、事を荒立てることはしたくありません。
「おのれ‥‥!!」
テア様がぎり、と歯をかみ締め、鎖で大人しくなった骸蛇の方を睨みましたが、その目は驚愕の形に開かれました。
顔を伏せたままの魔術師の口が小さく動いて、何かを呟いているのに気付いた瞬間、封じの鎖が崩れ始め、灰となって消えていきます。
「‥テア様の封術を破るなんて‥」
もともと封術はテア様の得意分野ではありませんが、それでも簡単に頑強な鎖を破るなんて、並みの魔術師のなせる業ではありません。
「貴様、封術を‥!!」
テア様、既に敬語を使う気は無いようですが、そもそもそんな場合ではありませんね。
もう一度封じの術式を組みなおさなくてはいけませんが、テア様が魔力を集中させようとしてもすぐに骸蛇の尾が襲い掛かるので、守護魔法で精一杯なんです。
残念ながら、私は骸蛇の尾を防げるほどの守護魔法も、高位の術士を封じるほどの魔法も使えません。
こんなとき、自分の無力が本当に嫌になります。
「私達はあなたに何もしません!蛇を鎮めて下さい!!」
耐えかねて叫ぶと、骸蛇がぴたりと攻撃をやめ、相変わらず威嚇はしていますが、這いながらゆっくりと魔術師のもとに戻りました。
そして、立ち上がった魔術師が踵を返したのでテア様はその背に声をぶつけます。
「これだけのことをして、逃げるつもりか」
「‥逃げる?」
ゆるゆると振り向いた魔術師は、その両目に負の光を宿していました。
「逃げる場など、もう冥界ぐらいしかない」
その言葉に、私もテア様も、少し目の色を変えました。
「私はもう疲れたんだ。八つ裂きにしたいならすればいい」
その声は挑発しているというより、本当に諦めの色を感じさせたので、逆に捕まえる気も無くします。
そもそも、私達は別にこの人を捕まえる気はありませんでした。
ただひとつ、私達の間にあった不運は、私達が神殿の人間で、彼が神殿の人間を憎んでいたということです。
きっと、国に両親ないし家族や恋人、友人を残してきたのでしょう。もしかしたら、先ほどテア様が言っていた師を、国に残してきたのかもしれません。
そして、度重なる弾圧。そして、飛び込んできた“魔術師狩り”という非情極まりない言葉。
心の堤防が用意に突き崩されてしまうのも、当然です。
「どうした、クリミヤ教徒。目障りな、“穢れた者”を始末できる絶好の機会だろう?」
私達は、彼の心痛を少しだけでも察しているから、そして察しきれないから、それが重石になって、言葉を封じ、足を動かなくしている。
この場に居る人間に、本当に悪い人なんていない筈なのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうと、私は目を伏せました。
憎しみの目でこちらを見る魔術師の後ろには、黒く塗りつぶされた空が見えて、今更ながら、あの蒼い空が彼自身、そして、無遠慮な黒い絵の具が、彼の心を切り刻むものだったのだと気付きました。
「‥‥ここは、ルエルタ殿の恩義に免じて不問にする」
テア様は、苦虫を噛み潰したような顔で言いました。これは、恐ろしいほど寛大な処置です。
でも、この場では寒く響くだけでしたし、多分テア様もそれは分かっているのでしょう。
それでも、テア様は言葉を続けました。
「そして重ねて言うが、フォルデルカのクリミヤ教徒と法術士‥全てではなかったとしても、少なくとも私達とこの街の神殿の者たちが、何もしていない者に手を出すことは絶対に無い」
「悪いがもう、誰も信用しない。お前達に限らず、この街、この国、この世界全てを、だ」
そう切り捨てると、骸蛇と共に、魔術師は姿を消してしまいました。
残された私達は言葉も無く、黒く塗りつぶされた空をじっと見つめ続けていました。
晴れ渡っていた空は、いつの間にか黒い雲に覆われ、遠くから神殿の鐘の音が響くのが聞こえました。
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