ぐだぐだな日常と、小話と。
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明日はオープンキャンパス。
夢なんか、諦めないよ。
ふたつもあるけど、どっちも諦めないよ。
ふたつあって、どちらか選べって言われても、片方だけなんて無理だから。
どちらにしても絶対後悔するけど、後悔なんてしたくないし。
だから、どっちも選ぶよ。 決めたよ。
だから、頑張るよ。英語も、数学も、国語も、世界史も。
不安に思って鬱に浸ってる暇があったら絵を描くよ。勉強するよ。
カッコイイ大人になるし、国際人になるし、漫画家にも小説家にもなるよ。
片方選ばなきゃいけなくても、絶対もう片方も拾うよ。
わがままとか言われても仕方ないけど、
色々諦めてきた人生だから、これ以上諦めるのは嫌だよ。
継続こそ力なり。
そんなこんなで、小説つづきあげてみる。
* 絵空の壁 * 5 *
「―いいから通せと言っているだろう!!」
「怪しい者は入れない!!だったらそれを取って見せろ。お前、異国の者か!?」
昨日、聞いた声。
フードを目深に被った黒衣の人物は、昼日中の神殿の門の前に居るにはあまりにもそぐわない。
私は勿論、テア様たちも、その人物との思いも寄らない邂逅に驚いて、立ち尽くしていました。
だって、神殿が嫌いだとあんなに言っていたのに、何故こんなところに?
「私が妙なことをしたら捕らえるなりなんなりすればいい!魔術師は神殿に入るなと、そういうことか!!」
門の前に立ちつくす彼は、あまりにも頑なな門番の態度に、痺れを切らしたように吐き捨てました。
「‥魔術師?お前、魔術師なのか、神殿に入って、何のつもりだ!!」
その言葉に門番の態度は一変。声色に畏怖の念が混じっています。神殿に異国人、しかも魔術師が入ろうとするなんて状況は、彼の頭に不吉な想像しかもたらしません。
「‥‥何かするつもりだったらどうする」
剣呑な声色の裏には、矢張りここでも同じか、というような、一種の諦め‥悲しみが見えました。しかし、その声色をその通りにしか受け取れなかった門番は、槍を構えて数歩後ずさり、恐怖の表情で叫ぼうとしました。
「‥‥‥だっ‥誰か‥!!」
「待て」
でも、すぐにテア様が一喝。門番も、そして黒衣の人物も、その場に硬直しました。固まっている二人の前に、私達は歩み出ました。
「悪意があるならばこの門に着く前の敷居の結界に引っかかる筈だ。その者に悪意は無い」
「‥‥け、賢者様‥」
「その魔術師が用があるのは私だ。外で話すからお前はこのまま警備を続てほしい」
「‥は‥‥い」
門番はまだ少し納得がいかないような顔をしながらも、大人しく定位置に戻りましたが、まだ興味ありげにこちらを伺っています。
「‥‥ここを離れるか」
「エアル、行くよ」
二人に支えられながら歩いて、門から大分遠ざかり、町の郊外に出ました。
「‥‥で、一体どうする気だ?ハスヴァル=フランマーレ」
「‥わざとでは、無かった。去った後で、骸蛇の尾から呪いの糸が伸びていることに、気付いた‥‥それで、辿って来たが‥」
ああ、やっぱり。だって、なんだか呪われてるって実感、なかったですし。
神殿が嫌いだと言っていたのに、安全だなんて保障は無いのに、わざわざここまで来たんです。それなのにどうして、この傷に悪意があったなんて思えますか。無理な話でしょう。やっぱり、私の直感に間違いはなかった。
自然と口元が綻びます。
「‥呪いの糸が繋がっている‥‥‥お前が、呪いを受けたのか」
影がさしたので顔を上げると、宙をのびる私には見えない糸を、フードの下の蒼い目が辿りました。
「蛇の尾が掠ってしまって‥」
「どうしてくれるのかな?人畜無害で呑気極まりない私の友にこんな仕打ちをして」
ああ、レヴィが後ろで怒っている気配がします。多分、素晴らしい笑顔を浮かべているのでしょう。勿論、声音は笑っているとは言えませんが。一瞬の沈黙の後、ハスヴァルは静かにフードを取って、こちらを真っ直ぐ見つめ、頭を垂れました。
「‥‥呪いを、解かせてくれ」
ごくごく静かな声音でしたが、碧空を思わせる澄んだ空色の瞳は深い後悔の色に染まっていて、そこに映った私の姿は、自分でも驚くほど弱弱しく見えました。
何か返事をしようと思っても、ありがとうと言うのも違う気がするし、何を言えばいいのか。
「‥‥是非、早めにお願いします」
私を支えながら傍に立つテア様の顔を見上げると、とても疲れた様子でした。流石に、あまり得意でない癒しの術を延々と掛け続ければ、辛いのは当たり前です。
「妙な真似をしたら、今度こそ地中に沈めてそのまま墓にする」
「素敵な墓標を作ってあげるよ」
だから、怖いですって。目が本気なんですが、どちらかというと今はこちらの方が危険に見えるのは私の気のせいでしょうか。
「大丈夫ですよ、二人とも。ですよね?えーと‥ハスヴァルさん」
「‥師の名に懸けて誓うさ」
テア様とレヴィは目配せすると私を石段に座らせ、1歩退いたところに立ちました。
でも二人とも、まだ完全には信用していないようで、ハスヴァルさんの動きをじっと見守っています。癒しの術の供給が止まったので、じわじわと痛みがぶり返してきて、私は顔を顰めました。
心臓の鼓動にあわせて脈打ち、侵食されるような痛みは、慣れるようなものではありません。
その様子を見たハスヴァルさんはすぐに駆け寄って私の前に膝を着き、肩の傷に手を添えました。
「“主が命じる。骸蛇の幻毒よ、宿主から立ち去れ”」
詠唱は結構あっさりしているんですね、なんて感心している間に、傷から何か‥‥うぅ、あまり気持ちよい光景ではありませんが、黒いものが球のように浮き上がって、体から離れていくのが見えます。
魔術師がさっと手を振ると、一瞬のうちに灰のようになって消え、全ての感覚がゆっくりと戻ってきました。解呪を間近で見たのは初めてですが、結構呆気ないものですね。
「‥体が軽くなりました」
後ろに向けて小さく笑みをつくってみせると、レヴィはにっこりと笑顔。テア様はほっとしたように溜息をつきました。魔術師の方に視線を戻すと、苦しげに表情を歪めて言いました。
「‥済まない。私は、治癒術は使えない」
ああ、そういえば傷は消えなかったみたいですけど、これくらいの傷、さっきと比べたら全然痛くありません。大丈夫ですよ、と言おうとした矢先、テア様が再びこちらに来ました。
「どけ」
既にテア様、敬語を使う気は無いようですね。このまま険悪にならなければいいんですが、なんて心配をしているうちに、詠唱を終えたテア様が両手に淡い光を纏わせて私の両傷にかざすと、見る見るうちに傷は塞がりました。
それくらいなら、私にもできるんですが‥いえ、勿論時間はもっともっとかかりますけれど。
「‥ありがとうございます。これで、完全復活ですよ」
二人に笑顔を向けますが、ハスヴァルさんは俯いてしまいました。
「神官も法術士も嫌いだが、この国の者に恨みは無かった筈だった‥‥怒りと嘆きが、私を狂わせた。許せとは言わないが、悪いことをした」
しかし侘びの仕方がわからないんだ、と言われ、謝罪の意がひしひしと伝わってくるのを感じました。テア様やレヴィも多少驚いているようですが、じっと黙って私の言葉を待っています。
「‥‥絵を」
口をついて出た言葉に、訝しげな顔をされましたが構わず続けます。
「絵を、塗りつぶしたのは、何故ですか?綺麗な絵だったのに‥」
全く思っても見なかったことを言われたようで、多少面食らった様子でこちらをじっと見つめる蒼い瞳には、困惑がはっきりと伺えます。ハスヴァルさんは口を開きかけて俯くと言う動作を繰り返した後、ゆっくりとした調子で話しはじめました。
「‥‥‥‥青い空が描きたくなって、丁度いい壁があったから描いた。だがその後ですぐに‥‥見せる者すら、今の私には居ないと」
ああ、きっと、大切な人達を国に残して来たんでしょう。暗い光の灯った蒼い瞳からは、悲しみ、怒り、そして色濃い絶望がうかがえます。
絵を描くことの理由には、きっと、それを見てくれる誰かの存在もある筈です。家を捨てたというハスヴァルさんにとっては恐らく唯一の家族同然の存在であっただろう師を奪われ、その絶望はどれほどのものだったのかなんて、私には推し量れるものではありません。
「だから、闇に潰した。蒼い空など最早、この身には似合わない」
あの青空は、見るものの心を澄ませます。でも、心を病んでいれば逆に、恨めしく見えてしまうものだったのかもしれません。
「小さな路地や、人の通らない行き止まりに綺麗な絵を描いていたのは、あなたですよね‥私、あの絵がとても好きで、描いている人に会いたいと思ってた。でも、次の日やその次の日、再び見に来ると、必ず黒く塗り潰されていて、とてもがっかりするんです。次こそは絶対に、犯人を捕まえてやると思っていました」
まさか同時に見つかるとは思っていませんでしたけど、と笑うと、黒髪の青年は不思議な表情をしました。
「‥‥誰も、目にも留めていないものと、思っていた」
「そんなことはありませんよ。私以外にも、目ざとく絵を見つけて立ち止まり、溜息をついた人はたくさん居た筈です」
同時に、塗りつぶされた絵を見て嘆いた人も居たでしょう。
「あの絵は、踏みにじられたあなたの空。でも貴方の上の空もやっぱり青いし、それは誰の上でも同じです。だから、あの絵を直して、きちんと完成させてください。そうしたら許します」
「そんなことで、いいのか」
「もともと最初は、私の方がろくに確認せずに貴方を魔法で攻撃したんです。お互い様ですし」
私の様子があまりにもけろりとしているせいか、ハスヴァルさんもいくらか毒気を抜かれた様子で頷きました。
「分かった。明日までに、必ず直す」
「はい。楽しみにしています」
少し納得がいかない顔をしているのはテア様。
「エアル、本当にそれでいいのか」
「くどいよ賢者殿。エアルがそれで許すと言っているんだ。だから私も許すよ。流石、私の友は寛大だね」
「わっ、レヴィ!」
上機嫌のレヴィに飛びつかれ、軽くよろけます。病み上がりなんですから、手加減してください。
「‥おや?魔術師殿、よく見れば、なんだか先日見た顔だね」
「何?」
私の肩越しにハスヴァルさんの顔をまじまじと見つめたレヴィが、面白そうな声を上げました。
「レヴィ、どこで会ったんですか」
「さあ、どこだったかな。裏路地の方でひっそりと魔法薬を売っていたような」
裏路地っていうと、少し日当たりの悪い‥つまり、色店や居酒屋が立ち並ぶ、少し治安の悪い地域のことでしょうか。ハスヴァルさんはともかく、レヴィ、そんなところに出入りしてるんですか。
そして、ハスヴァルさんは意外にこつこつと商売をしていたんですね。もとは貴族のご子息ですし、多分最初は色々苦労したんだろうな、と思いを馳せつつ見つめると、彼の方も思い出したようで、ぽんと手を打ちました。
「ああ、浮遊薬やら変身薬やら惚れ薬やら透明薬やら怪しげな薬を大量に買っていった、あの客か」
数秒間、空気が凍りつきました。
‥浮遊薬‥‥‥変身薬、そして‥‥‥惚れ薬、透明薬‥‥‥!?
「‥レヴィナス=エフィンズ‥‥‥貴様、そんな薬を買って何をするつもりだ‥‥?」
「‥‥‥‥くすっ」
多分、最近で最大級の悪寒がテア様の背筋を駆け抜けたことでしょう。瞳の中に恐怖がありありと浮かんでいます。
レヴィはテア様をからかうためなら労力を惜しみません。テア様はレヴィに掴みかかりましたが、レヴィは怪しい笑い声をあげながらひょいひょいと避けました。
「貴様、今すぐその薬を全て出せ、そんな危険物お前に持たせておけるか!!」
「おっと。口が軽いね魔術師殿。客の秘密は守らなきゃあ駄目じゃないか」
「‥一体何なんだ」
呆気にとられた様子のハスヴァルさんに、私は苦笑いを浮かべながら言いました。
「すみません、ハスヴァルさん。今度からあの人には怪しい薬売らないでくれますか。色々危ないので」
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あとはエピローグを残すのみ。
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